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浦沢直樹のYAWARA!を読み返してみたんだが、ストーリーテリングの絶妙さに舌を巻くしかなかった。
よい意味で漫画的なストーリー。 わかりやすいライバル。
そして、あちらを立てればこちらが立たず、という微妙な状況が繰り返され、読者はそれにハラハラさせられる。 いわゆる「緊迫感」とはまた別質の、微妙な部分でどうなるのか先を心配させられる、見事なストーリーだ。
たとえば柔が短大を卒業後、普通なら西海大学に編入ということになるだろうが、ここで編入なのか、それとも旅行代理店に就職するのか、というジレンマを設ける。 あるいは就職してから、接待と試合のどちらを優先させるか、という話にしても、なんかいろいろ気を使う柔の立場に立って、ハラハラするわけである。 配慮しないといけない相手が二人いて、片方をがっかりさせるのが忍びない……、みたいな話作りが絶妙だ。
「続きが気になる」という作品にする場合、必ずしも大仰な話にする必要はないということだ。 むしろ日常的にわれわれ読者に心当たりのあるようなジレンマを提示した方がハラハラするという場合もあるのである。
さて、そういう点から言えばHappy!は今ひとつうまくいっていない気がする。 Happy!という作品は、序盤と中盤以降ではやや話の進め方が違うのだが、特に序盤では、主人公に次々と不幸が降りかかるだけであり、YAWARA!と違って、微妙なジレンマがないのである。 つまり(選択の余地のないトラブルが降りかかってくるから)「どっちを選ぶのか」というのではない。
正直、序盤は読んでいて少しつらくて、5巻くらいで投げようかと思った。 浦沢直樹としては意図的に「低俗なメロドラマ」をやっている感じで、そのあたりある種の名人芸は感じるんだけど、普通に読んでいて今ひとつ楽しくなかった。 たとえば竜ヶ崎蝶子というブリッ子のライバルなんかは、喜劇としてはすごくよく描けていて、浦沢直樹の喜劇を描く力量はすごく感じるんだが、普通に読んでいて、あんまり楽しい気分になれない。
もちろんHappy!に出てくる「不愉快なキャラ」はあくまで「漫画的」なものだし、あるいは「不愉快な出来事」も「漫画的」なものだから、読んでいて著しく不愉快になるわけではないんだが、そうかといって楽しいわけでもない。
ただ中盤以降は普通に面白くなる。 序盤では「イヤな話」を中心に据えていたのに対し、中盤以降オーソドックスな話作りになる。 YAWARA!と違う路線で進めていたのが、結局YAWARA!的なストーリーテリングになった。 たとえば(大金持ちの息子の)鳳圭一郎が家を出てどうするのか、という単純な話でも、続きが気になって読者は次々とページを捲らざるを得なくなる。 微妙に痛々しい中でハラハラさせるというさじ加減が絶妙だ。 このあたりはさすが、と思うと同時に、なぜ最初からこういう話にしなかったのかと思った部分も。
もう一度Happy!の序盤の話に戻すと、たとえば借金の問題で悩むとして、(YAWARA!的にするんなら)、お金がないことで人に迷惑を掛けてしまうという微妙な展開にするべきだった。天才的なストーリーテラーである浦沢直樹なら、そういうエピソードをいくらでも思いつけるはずである。お金がないから申し訳ないという話を書いて、読者も一緒に申し訳ない気持ちで悩むような、そんなエピソードを作れたはずだ。
要は金がないことで、イヤな借金取りに追われたり、イヤな大家に追い出されたり、イヤな大金持ちに関わらされたり、というのがHAPPY!の序盤の展開なんだが、これだとあんまり痛切さがないんだな。 このあたりがYAWARA!であれば、「いい人たちに迷惑を掛けて心苦しい」という描き方になっていただろう。 たぶん、意図的にYAWARA!と別のことをやろうとしたんだと思うけど、ピンチが悪い意味で漫画的だから、ハラハラしないんですよ。 (まあ前述したように、後半からYAWARA!的な話作りに変えて、そのあたりから面白くなっていくんだけど)。
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